ブログ
曖昧な「いじめ」と「いじり」のボーダーライン
「いじめ」と「いじり」のボーダーライン
毎年1回、全寮制の高校で「いじめ」防止の授業を行なっています。今年は「いじめといじり」について、高校生にわかるように話してほしい、と言われました。
私たちの会社ではハラスメントを「色々な場面での大人の嫌がらせ、いじめです。絶対に許してはいけない(時として死に至る)危険行為です」と短く定義しています。
「いじめ=暴力も含むハラスメント」と私たちは考えているわけですが、、、。それでは「いじり」って、いったい何なのでしょうか?
「いじり」は江戸時代から
いじりの語源は「いじる」「さわる」から来ています。もともとは「手で触ってあれこれいじる」「ものをさわって弄ぶ」という意味でした。実は「いじり」という名詞になってからは「揶揄う=からかう」という意味、人を話題にして軽くからかう、揶揄(やゆ)すること」を表すようになりました。江戸時代からこの引用が見られたそうです。
たとえば、「ボケとツッコミ」のお笑い芸人。ツッコミがボケをいじりますよね。お笑いのバラエティを見ていると「お前、あいつをいじりすぎだろう」なんて場面も。でも、ここにはお笑いならではの明るい「からかい」が存在します。
基本的な意味の違い〜「いじめ」と「いじり」
「いじり」というのは、元々はコミュニケーションのための軽いノリのやり取り、基本的には悪意はなく、その場を明るくするための会話と捉えられる場合が多いです。もちろん、その間に「双方向の信頼関係」が成り立っているから、いじれるのだと思います。
①高校2年のAは数学の授業中、間違った答えを言ってしまいました。すかさず友人の野球部のBが坊主頭をなぜながら「やべー、ツルッとすべったな」と言いました。そのツッコミには誰も笑いませんでしたが、、Aが「ここ笑うところでしょう」と続け様に言うと、みんなが、ふふっ!と笑いました。
①上記は「いじめ」でしょうか、「いじり」でしょうか? ちょっと考えてみてください。
②高校2年のAは数学が得意ではありません。たびたび答えを間違えるのですが、、その度にクラスメートのBは、周りに聞こえるように「何回間違えるんだよ、こんな問題小学生だってできるよ」「また間違えた、Aはバカだよな」と言います。笑う者もいますが、クラスメートたちは見て見ぬふりをする者がほとんどです。
①と②を比べて見ましょう。
実は①は双方向です。人を巻き込んで「場」が明るくなっています。ところが②はどうでしょう?①に比べると「一方通行」です。やりとりがありませんし、「場」には緊張感が漂っているようにも、あえてその話題に触れない無関心さも感じます。
もう少し考えて見ましょう。
③天然パーマの高校生五十嵐くんは、その髪の質から「くりちゃん」と、みんなに親しみを込めて呼ばれています。「クリちゃん」と呼ばれると、五十嵐くんは「栗じゃないよ、イガだよ」と、すぐさま反応します。それもまたみんなの笑いを誘います。
五十嵐くんは「くりちゃん」と言われてどんな気持ちでしょうか?
④もともと体格のいい徳川くんは、高校に入ってさらに体重が増えました。クラスのAとBは徳川くんに「そばぷん」とあだ名をつけました。そばにくると「ぷん」と臭う、と言う意味です。今では、クラス全員がそのあだ名を使うようになりました。
③も④も外見についての「いじり」あるいは「いじめ」です。③の五十嵐くんは「くりちゃん」と呼ばれても、うまく自分の気持ちを笑いをとりながら、返しています。一見、抵抗を感じていないように思えますが、実は内心、カールした髪の毛のことで悩んでいるかもしれません。
④の徳川くんは、外見から付けられたあだ名、それもクラス全員がそれを使っています。自分ではすぐに変えることのできない容姿についてのあだ名ですが、これを徳川くんが「やめて!」と言って頼んで、それで収まるでしょうか。
高校生の声〜高校生は「いじり」をどう捉えているのか
高校生の声を聞いてみましょう。
①バラエティ番組のお笑い芸人の「ボケとツッコミ」「いじり」と、学校の「いじり」は違うと思います。いじめといじりのボーダーラインは曖昧です。いじりはグレー、ブラックのいじめにすごく近いと思います。私は「グレーはすでにブラック」だと思います。
②繰り返し特定の人に対して行われるいじりは、当事者じゃなくても、周りの人が嫌な気分になります。いじる人といじられる人の間に、いい友達関係はないと思います。
一方で下記のような意見もあります。
③十分に相手との関係を作っているなら、いじりは笑いをとり、みんなが楽しくなります。私は「いじりはあり」だと思います。
④なんでもいじめと受け取るのではなく、ある程度「広い気持ちで」受け止められることも必要だと思います。
「いじりはOK」「いじりは✖️」と両方の意見が出ていますね。
「いじり」と「いじめ」のボーダーラインは
「相手が笑えるか、傷つくか」つまり「一方通行か、双方向か」「執拗に同じことが繰り返されていないか」「やめて!と言ったら、その行為が止まるか」このポイントを抑えることは少なくとも必要だと思います。
高校生だけでなく職場の「いじめ」と「いじり」には注意
働く現場、職場ではハラスメントが起こる場合があります。
ハラスメントとはなんでしょうか。「ハラスメントとは、いろいろな場面での大人の『いじめ・嫌がらせ』です。時として人が死んでしまうような危険行為となります」
上司が「職場」を和ませるつもりで、部下を「いじる」場合、双方向の良い関係が生まれている職場であれば、これは効果を生むかもしれません。しかし、職場はいろいろな背景を持つ年代も異なる人たちが一緒に働いています。
「双方向で笑いが取れる、風通しの良い職場を目指せる」いじりなのかどうなのか、慎重さが必要であると思います。少しでも、いじられる方が不快になるのであれば、これは「いじり」を超えた「いじめ=ハラスメント」になっていきます。
「いじめ」と「いじり」については、もう一度再考したいところですね。